あんぱんが好き・6、思い出あんぱん・2

 昔々、もうとうになくなったおじいさんが、外孫の私を映画に連れていってく れたことがある。もっともそんなことは後にも先にもそれ一回だったが。松本は上土の映画館だった。チャンバラの時代劇がいいというおじいさんに、私がいや西部劇がいいと言い張はったので、おじいさんが折れ西部劇を見せてくれた。黄色いリボンとか駅馬車という映画だった。

 そんな映画はそれまで縁がなく新鮮な驚きを感じたものである。映写の途中お昼の時間になり、おじいさんがあんパンを買ってきてくれた。なるべく音をしないように食べた。暗闇の中、よく見るとあっちでもこっちでも口をもぐもぐさせている。腹の足しになるようなものはあんパンくらいしか売っていないのであるが、一本目が終わってライトがつくと、あんパンで腹を膨らませている親子づれ、若いカップル、中年の独り男と..、今、思い出せばなんともわびしい光景ではあったろう。