おにぎりおむすび物語

  おにぎりといえば、当節はコンビニストアのおにぎりを思い浮かべる人が多いのかもしれない。

 しかし多くの人にとって、おにぎりはやはりふるさとの味であり、おふくろの味、おふくろのこころであるに違いない。幼い日に、遠足や折々の行事で食べた母がこころをこめてにぎってくれたむすびの味は、郷愁の味そのものである。海苔(のり)と梅干しの芯で象徴されるおにぎりも、地方によってまた各家庭によって実にさまざまだ。人はみな、それぞれの思い出のおにぎりを持っているのだろう。

 おにぎりといえば、まず思い浮かべる光景がある。おじいさんの茅ぶきの家にはいろりがあった。毎朝、前日の残ったごはんをまるくにぎり、いろりのまわりのワタシと呼ぶ金網のさんに乗せゆっくり焼きまわり全体がかたまったところで、味噌をぬり、またワタシに乗せやや焦げるくらいに焼く。味噌の焼ける香ばしい香りが、いろりから家全体に広がる。

 これぞ私とって郷愁の味であり、郷愁の香りそのものである。このむすびをうまく焼くには山からとってきたボヤ枝を燃やした後の炭がよく、これでジワジワ焼くとグルリ(まわり)だけ焦げたりはしない。