隻脚(せっきゃく)の教え!

 もうだいぶ前のことになるのだが、とある近郊の公共温泉施設に行ったときのことだ。

 着ているものを脱ごうとしていたら、70も過ぎているだろうか、おじさんがコインロッカーの取扱い方法を訊ねるので、そんな説明をしていたら、「あんたー、疲れるでしょう。肩が凝るでしょう。ちょっと姿勢も悪いようだし..」というので、そうだと答えると、「じゃっ、ちょっと揉んでやりましょう」という。

 私をイスに座らせると、肩から揉み出した。揉んだり、両肩を広げて、エイッとカツを入れたり...、奇特な人もいるものだと、ありがたくしてくれるままにしていた。しばらく揉んだりひねったりした後、「どうー、だいぶ良くなったでしょう。ちょっと、立って見て...、うん、シャキッとしてきたでしょう...」、私もそうだと答えざるえない。

 「背筋はね、いつもシャキっと伸ばしてなきゃいけないよ。」「ハイ..」「いやァ、どもども、ほんとにありがとざいました。」

 私へのモミモミとプラス訓話を終えて、洋服を脱ぎだしたそのおじさんを見て、私はギョッとした。片足がなかった。義足だった。