「ないしょの手紙」、ヤナーチェックの弦楽四重奏曲第2番

 私が、チェコの作曲家・ヤナーチェック(1854〜1928)の曲を聴くきっかけになったのは、確か昔、レコード店に並でいて目についた、なんとも思わせぶりな”ないしょの手紙”という曲名に惹かれたからである。その後もクラシック曲はいろいろ聞いているのだが、これほど思わせぶりなタイトルの曲は他にお目にかかっていない。

 ”ないしょの手紙”とは文字通り音楽であらわしたラブレター、彼の生命力の支えになった恋人、カミラ・シュッテスロヴァーへの音楽のメッセージなのだという。作曲されたのは死の年の1928年、ヤナーチェックは74歳になっていた。

 その年のいつごろか、彼は人妻のカミラとその子供を連れてピクニックに出かけた。その時迷子になった子供を雨の中、周囲が止めるのを聞かず探しに行き、それがもとで肺炎になりあっけなく昇天してしまったと伝えられるが、どうもこれは作り話らしい。いい年をして女性ばかりを追いかけまわしていたというヤナーチェックにはあまり上等なエピソードがなく、それを気の毒がった誰かがねつ造したのではないかとも。

 晩年の十年あまり、ちゃんとしたとした妻がいながら、38歳も年下の人妻のカミラに熱を上げ、親密な交際を続けていたのである。そのカミラにヤナーチェックは600通にも及ぶ手紙を書き送っているが、この曲はそれらに綴られた想いを音楽
に託して表現したもののようである。特に、第2楽章では、カミラが自分の息子を産んでくれるのではないかという夢
ないしは妄想が描かれているとも。

 かなりくだけたタイトルの曲なのが、作品としての評価は高い。20世紀の曲だから、ベートーヴェンなどの曲とはおおよそ異なるが民謡風な旋律も出て来て印象的、私は好きである。必聴の1枚かも。