昔々、渋谷道玄坂に古本屋があった...


 昔々、渋谷・道玄坂に古本屋があった..。

 もう、40年以上も前のことになるが、むろんあのあたりの様相もすっかり変わってしまっていて、その店が今もはたしてあるのか、どこらへんの位置になるのかもわからない。

 当時、確か雑誌か何かにちょっぴり紹介されていたかと思う。東京へ行った機会にその店を尋ねて行ったのだった。

 そこには、さまざまな大きさかたちの、いわゆる無名詩人の詩集がうずたかく積まれて、只みたいな値段で売られているのだった。無名詩人たちのせつない思いが、無造作にいわばのざらしのようなかたちで積み上げられている感じだった。見ると、それらのかなりのものは、著名な詩人に献呈されたものが何かの加減で古本屋に出回ってきているのだった。

 十何冊も買ってきたそのときの詩集も、人にやったり色々散逸してしまって今では五、六冊程度しか残っていないけれど、何十年とたった今でも、それらが格別古くなっているとも、もえるこころを失っているとも思えない。

 いつの時代にも文化の底辺を支える数知れない人々がいて、人知れずいってみれば報われることの少ない創作活動に情熱を燃やし続けているのである。創作文化や芸術の歴史とはそういったものの系譜の集合体である。表面に出てきているものは氷山と同じでほんのわずかである。

 今でもそんな古本屋が、全国のここかしこにあるのかもしれない。(画像は”渋谷道玄坂の古本屋”で検索したら出てきたもの)