親爺のクラシック

 およそクラシックなんかとは縁がなさそうに見えた私の親爺のレコードストックの中にあったのが、ロッシーニの「ウイリアム・テル序曲」とリストの「ハンガリー狂詩曲」である。それにシューベルトの「野バラ」やシューマンの「トロイメライ」なども確か。それら、歌謡曲浪曲やタンゴや他の洋曲、私たちに買ってくれた童謡などに混ざって....。

 もちろん昔々のことだからSP。今のCDやLPならゆうに1枚に収まるだろうに何枚かの組みになっていた。親爺がそのクラシックに耳を傾けている光景など記憶にないが、戦後の貧しい時代、音楽にも飢えていたし、子供ながらにも繰返し繰返し聴いたものだ。

 <夜明け・嵐・静寂・スイス軍隊の行進>の4部からなる「ウイリアム・テル序曲」、ほんとうに小さい胸をわくわくおどらせて聴いたものだ。ロッシーニの序曲は「セヴィリアの理髪師」などもそうだが、みな明るく軽快、すばらしい魅力いっぱいの管弦楽曲である。

 これらのレコードを聞いたのが、昔なつかしい電蓄である。もう電蓄なんていってもわからない人が多いだろう。文字どおり、電気蓄音機の略。もちろん中は真空管がズラリ。縦型のボックススタイルで一番上にプレーヤー、真ん中にレシーバー(といっても、中波だけのラジオ付き)、にスピーカー。むろんまだステレオもFMもない時代。それにまだまだ、そこらへんの隅に手回しの蓄音機なんかも残っていた一頃である。

 親爺がどのような経緯で、はたしていつこの「ウイリアム・テル序曲」や「ハンガリー狂詩曲」のレコードを買ったのだろうか。そういえば疑問に思ったこともなかったが..。その父も、亡くなってもう10年以上に。(写真は電蓄・ヤフーの画像検索より)
shasinn