バッハ、ゴールドベルク変奏曲の思い出


 昔、まだCDでなくレコードが一般的だった時代。ある年も秋の終わりに近い日の夕方、とあるレコード店に入って、中のコーナーをいろいろ見て歩いていた。と、若い女子学生が二人、一人が店員に選んだレコードを渡して買うのが見えた。なにげなしに見たそのレコードのジャケットが、このバッハの「ゴールドベルグ変奏曲」。

 もう一人の学生が、それを見て、「へえー、あなた、こんなの聞くの?」するとそのレコードを買った女子学生が、「うん、夜、独りでいるときなんか、こんなのがいいんだ..。」
 
 私は、その二人のやりとりを聞いていて、えっ!と思って、確かゴールドベルグなんて、退屈な曲じゃないかと思っていたので、”あれ、そうなのかな” と、再認識というか、改めてよく聴いててみようという気になったのだった。

 もうあれから、きっと30年以上も経っているが、この曲を聴いたり、この曲のことに思いが及ぶとき、そのレコード店の光景が浮かんだりする。その少女が、見るからに理知的で美しいなんていえば、話は小説的にロマンチックになるのだが...。
グレン・グールドが弾くゴールドベルグがいい。チェンバロの曲はちょっと神経的に疲れる感じも。