害虫回想記・その7、蠅(はえ)の巻・2、”ハエ取紙”

そのころ特に農村地帯ではどの家の便所(トイレでなくあくまで便所というイメージ)の下の便壷を覗けば、うじが無数にうごめいている。これじゃハエなどいなくなるわけがない。なにしろ絶対数が多かった。 家中いたるところにハエ取紙がぶらさがり、ハエを誘いこむガラスで出来たハエ取瓶とでもいうべき容器が置いてあった。

 ハエ取紙は、幅5センチ、80センチ位の長さで、巻き尺みたいに小さい筒に巻きこまれていて、使う時、ビローンと引っ張り出す。そこには強力でネバネバの接着剤が塗ってあって、飛んでいるハエがくっつくと逃げられないという仕掛。

 あれほど人のハエタタキの手からスルリと逃げるハエが、どういうわけか無数にくっついている。ところがこれは、うっかりしていると人間様の顔でも腕でにでも容赦なくピチャッとくっつく。この感じのゾッとする気色の悪さといったら...。